和光市がスゴい、ただひとつの理由

171126_01.jpg
昨日は埼玉県和光市の保健福祉部長、東内京一さんの話をお聞きしてきた。

和光市は独自の高齢者向け施策を行った結果、
高齢者に占める要介護者の割合(要介護認定率)が全国の半分になっている。
171126_02.jpg
(↑東内さんの資料から抜粋)

介護にかかる費用の増加に頭を悩ませる行政にとって
和光市の取り組みは輝いて見えるだろう。

しかし、和光市の取り組みには以下のような批判もある。
171126_03.jpg

1.介護保険を「卒業」させようとするのはおかしいのではないか
2.身体機能(ADL)の改善偏重になってはいないか
3.和光市が要介護認定率の抑制を謳うと、他の自治体もそれを追わねばならなくなる


昨日は東内さんが上記の批判にこたえつつ、
和光市がなぜすごいかが透けてみえる機会だった。

東内さんによる批判への回答を整理した上で、
なぜ和光市がすごいかを私なりに言語化してみたいと思う。

まずは3つの批判の中身と回答を整理する。

介護保険からの卒業が和光市の高齢者向け施策の目的ではない
生きている限り人は老い、いつかは死ぬ。
一度介護保険を「卒業」したとしてもそれは卒業ではなくあくまで休学であり、
復学することが十分にありえる。
だから「卒業させる」のはおかしいのではないか。
これが「卒業」批判の論旨だ。

たしかに和光市を取り上げたメディアやケースで「卒業」という単語が盛んに使われている。

クローズアップ現代
厚生労働省の資料

しかし東内さんによると「卒業は目的ではない」とのこと。
実際、和光市長寿あんしんプランに「卒業」の文字はひとつもない。

あんしんプランの基本目標は「介護保障と自立支援のさらなる発展」だ。
「卒業」に近い表現としては8ページに「サイクル(Cycle)」があり、
次のように説明されている。

「循環、また変化しながら元の状態に戻ることです。」
確かに「もとに戻る」という記載があるが、その前に「循環」と書かれている。
介護保険は卒業しておわりではなく、再入学が前提になっている、ということだ。

ADL向上はQOL向上のための手段である
次なる批判として、施策がADLに偏っているのではないかというものがある。
今年2月に行われたイベントの議事録では、
和光市で行っている地域ケア会議について次のように指摘されている。

ADLとIADLの変化に着目するということと、できていないことをできるようにするというのが目的になっています。ICFでいう「心身機能・構造」を重視しているというところで、本人にかかわること、生活歴とか個性といったことは、全然盛り込まれないです。

しかし東内さんによるとADLはあくまでQOLを高めるための手段。
前述のあんしんプラン内のチェックリストでも
必ずしも内容がADLに偏っている印象は受けない。
171126_04.jpg

上記議事録に記載されている70代男性のケースは、制度が本来意図するものではなく、
運用上のエラーだと言えるのではないだろうか。
(もちろん望ましいことではなく、是正されるべきではあるが)

要介護認定率の抑制は事実として示されているだけである
最後の批判は「和光市が要介護認定率の抑制を謳うと、
他の地方自治体も真似し始める。利用抑制は介護保険の理念に反する」というものだ。

要介護認定率は介護給付費と直結する。
どの地方自治体も財政が苦しいから、要介護認定率は指標にされやすい。
○○をやったら要介護認定率が下がって財政が改善しました。やったー!という未来。

しかし東内さんは、要介護認定率の抑制は結果であり、
それを目指したわけではない。他の自治体が真似する必要もないとする。

これを言われたら再反論のしようがない。

要介護認定率の抑制を目指すかどうかは各自治体の判断だ。
判断の責任を和光市に求めるのはナンセンスである。


では、和光市は何がすごいのか。
この文章を書こうと思ったとき、実はいくつか要素が思い浮かんだ。
しかし、どの要素も結局次の1つに収束する。

それは、
制度づくりではなく個人を救うために調査をしている
ことである。

高齢者施策の計画を立てる上で、どの地方自治体も住民にニーズ調査を行っている。
住民のニーズを元に介護サービス等の供給量を検討するのだ。

しかし調査によって和光市が目指すのはサービス供給量の検討ではない。
和光市は、アンケートをもとに回答者に直接介入する。

具体的には、リスクのある人を抽出して全員にアンケートを送り、
回答がない世帯には訪問活動を行う。
さらに調査内容をふまえ個人個人にフィードバックを送付している。
171126_05.jpg

情報を整理するためではなく、ニーズにこたえる、
望ましい変化を起こすために調査を行っているのだ。

これは、非常に手間がかかる。

実際、私が住んでいる町田市の調査方法を見てみたところ、
調査対象は無作為抽出だし、調査結果に基づいて個人に介入することはない。

171126_06.jpg

これでは傾向をつかむことはできるが変化を起こすには至らない。
(町田市さんやり玉にあげてごめんなさい。)

どこで、だれが、何に困っているのか。
これが可視化されることで、打つ手に説得力が出る。

また、不要な手を打たずに済む。不要な手を打たないということは、
無駄なコストをかけずに済むということだ。

コミュニティケア会議も、介護認定・予防認定を受けなくなったあとの地域支援事業も、
介護分野以外の資源の活用も、調査の結果を根拠にできる。

昨日のイベントでも「どうやったら和光市のようなことがわが町でできるか」
「和光市モデルの横展開」といった言葉が出てきた。

しかし、よそ見る前に、わが町のどこで、だれが、何に困っているのか、
困る可能性があるのかを可視化することが必要ではなかろうか。

主体は行政でも民間でも誰でもよい。
一番面倒だと思われることを地道にやった人がヒーローになる。

東内さんの話から、そう感じた。

明治大学の2年生80人とお話する機会をいただきました。

171110-02

今日は明治大学の小林秀行先生、ETIC.の関根純さんにご依頼をいただき
「インターンシップ入門」という科目で100分間の講義を担当しました。

事前の打ち合わせで、学生の方々は「自分らしい人生を歩みたい」と
思いつつもなかなか踏み込めない傾向にあるという話が出ました。

なので今日はいただいた時間の中で全員が、
自分が関心を持っている領域に一歩踏み出せるようにしようと考えました。

◎やろうとしたこと
・冒頭で自分の関心領域を言語化できているか&関心領域で動けているかを確認する。
・後半、学生に話を振り、出られそうな場合には前に出てきて今感じていることを語ってもらう
・後半で学生がオープンになれるよう、前半で自分の話を60分くらいする。失敗談を中心に。
・その後、自分の関心領域をノートに書き出してもらう
・関心領域に関する予定を入れる(予定を入れられた人の割合が今日の成果指標)
・なかなか予定が入れられない人のためにスリールさん、ETIC.さんの力を借りてイベントを紹介する

◎実際に起きたことと、それに対してやったこと
・着いたら学生がU字で座っていた。なるべく教壇から遠くに座る配置。
びっくりした。教壇からだと遠すぎるので、前の方の机に座って話した。
・話しながら5人くらい眠っている人が目についた。焦った。
・自分の話を60分くらいしようと思っていたが、焦りすぎて40分くらいで終わってしまった。
・自分の話が予定よりも早くおわったので、質問を募りながら6~7人に話を振った。
うち4人くらいに前に出てきてもらった。1500分の2くらいの狭き門に奮闘している人、
バイト先の先輩が住宅販売の会社を立ち上げて活躍しているのを見て
自分も営業マンを目指しているという人、会計や経営に興味を持っているが
何から始めたらいいかわからない人。
・学生の皆さんが思いのほか率直に話してくれたので、
なんと小林先生が自分の黒歴史を話し、関根さんもアドバイスをしてくださった。
TAの方も!大人たちはやさしい。
・イベントを紹介してくれたETIC.のインターン生荒川さん、
スリールの学生スタッフ浅井さんが二人とも素晴らしかった。
「一歩踏み出すとこんな展開もあるのだ」と感じてもらえたと思う。
・講義の時間をとおして、関心領域を言語化できるようになった人、
実際に動けるようになって人が増えた。(写真は関根さんが書いてくださったメモ)
171110-01
・成果指標だった「予定を入れる」について「予定が入れられなかった」のは
5~6人だけだった。つまりほとんどの方は何らかの予定を入れることができた。
・講義終了後も小林先生、関根さん、私それぞれに声をかけてくれる学生さんがいた。
20分くらい話し込んだ。小林先生に「めずらしいこと」と言ってもらえてうれしかった。

◎次回以降の改善点
・自分の話が40分で終わってしまったのは、項目が25個もあり
「急いで進めねば」と焦ったからだと考えられる。
60分だったら話題を7~10個くらいに絞ってスライドもつくり、
一つ一つをしっかり説明した方がよかったかもしれない。
・関心領域をみなさんに書き出してもらったあと、それを共有する時間を設けてもよかった。
・終わった後、介護や福祉に関する質問をしてくださった方もいた。
今日は「こんな感じでもやっていけますよ」ということを伝えたくて
学生時代から今にいたるまでの失敗を中心に話したけれども、
もしかしたら仕事のことをガンガン伝えてもよかったかもしれない。
・レジュメに「るろうに剣心」の挿絵(齋藤一が「お前のすべてを否定してやる」と言うシーン)を
入れたが今の学生は牙突を知らない
・レジュメに「うわっ私の年収低すぎ」の挿絵を入れたが今の学生は@type知らない
・上記2点については自己満足に走ってしまったことを反省している
・小林先生と関根さんの打ち合わせの時点で「インターンの話いらない」で
合意したものの、直前でSFCドローン未来社会論事件がおきて、
やっぱり話はシラバスどおり進めねばならぬと悟り、インターンの話もいくらかはすることにした。
といういきさつをわざわざレジュメに書いたが別にいらなかった。

反省点も多々あるが、とても楽しいひとときでした。
小林先生、関根さん、関係者の皆様、今日はありがとうございました!