音楽療法士たちの心理的成長

音楽療法士を志す人たちはどのような心理的ステップを踏んで成長するのでしょうか?
この問いに対して、「チャレンジ!音楽療法2003」で臨床家として長く音楽療法を
実践されてきた松井紀和先生がお答えになっています。先生曰く、その心理的ステップは
下の表のとおり大きく四段階に分けられるとのこと。


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まず、自分自身が「音楽が素晴らしい」と思えるような原体験をする。次にその体験を
人に勧めたいと思う。松井先生は、この第二段階の心理を「美味しいお店を人に教えたい
気持ち」にたとえています。第三段階になると、体験をただ人に勧めるだけではなく
自ら提供しようとし、第四段階では、体験を提供するエキスパートになろうとする。

この第四段階まで至った場合に、音楽療法士はプロとしての道を歩み始めるのでしょう。
ここで松井先生は、演奏家や音楽家と音楽療法士の違いは「誰のために
音楽を使うか」という点にある
とし、下記のように指摘されています。

「長い間、自分のために音楽をやってきた人が、ある日突然人のために音楽を使うとしたら、
その転換は並大抵のことではないでしょう。それには自分の音楽の嗜好性は犠牲に
しなければならないこともあります。」
                         (チャレンジ!音楽療法2003 P.10より)

すなわち音楽療法士とは、単に音楽を使った活動をする存在なのではなく、対象者の課題を
解決するために最も適切な音楽行為を実践できる存在でなければならないのです。この、
いわば消費者から提供者への転換は、アマチュアのスポーツ選手とプロの
スポーツ選手の違いにもたとえられます。すなわちアマチュアのスポーツ選手は
スポーツ行為そのものを楽しみますが、プロのスポーツ選手はチームの勝利のために
時として自分の嗜好を犠牲にすることが求められます。そしてこの転換は、
容易ではないでしょう。

なお上記松井先生と同様の指摘は、東京未来大学の竹内貞一先生もなさっています。

「音楽療法士は治療もしくは援助というところに対しても、音楽家のアイデンティティを
前に出しすぎる人が多すぎたのではないか、と思っています。音楽家はある意味、
自己愛的な世界でもあるので、音楽中心の価値観を医療の現場に持ち込んでしまうと
相手の心の領域に不用意に踏み込んでしまう。そこらへんをしっかりコントロールできる
ということが(音楽療法士の)適性として非常に重要なのではないでしょうか。」
                       (the ミュージックセラピー vol.10 P.109より)

音楽療法士を目指す人は、まず「自分の表現のために音楽を使う」という自分の価値観を
「人のために音楽を使う」という価値観に本当に転換できるかどうかについて、自分の心と
相談する必要があるでしょう。

その転換ができない場合、音楽療法士になってもなかなか現場を得られず苦労を
されるのではないか、と考えられます。
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